ダーツ戦略に関する確率的な分析(モデルの話)
ダーツ戦略に関する確率的な分析(モデルの話)
1.はじめに
過去、著者の趣味はソフトダーツであった。著者がダーツバーに入り浸っていた10年前のソフトダーツの世界では、過去より常連客によって言い伝えられてきたある種の「戦略(セオリー)」が連綿と受け継がれていた。例えば
- Criketゲームにおいて、点数が優位な状態でカットを行う場合、3本シングルキープを狙うべし
- 01ゲームでは、ブル+あるナンバーのトリプルとなるような数字が残った場合、トリプルを先に狙うべし
といったもので、当時はその「戦略(セオリー)」がどの程度正しいものかと疑問を覚えながらも先人に従っていたことを記憶している。
そこで、本カテゴリでは、ダーツゲームを確率的な観点から分析を行うことで、ダーツゲームの戦略の事実関係を整理することを目指したいと思う。
2.モデルについて
分析対象となるダーツゲームモデルを示す。
① 一般的なソフトダーツのボードサイズ(≠ハードボード)を前提とする。
② 特に断りのない限り、一般的なソフトダーツのルール(01やCountUP時は
ファットブルCriketはセパブル)を前提とする。
③ レーティング等の指標はダーツライブ社の指標(Ratingは最低1、最高18の
18段階、フライトはN~SAの8段階)を利用する。
上記の前提事項に加え、最も重要な仮説として
④ ダーツはプレイヤーの狙ったダーツボード上のある定点から正規分布に従う
乱数を加えた点に到達(着弾)するものと仮定するものとする
この仮説について、次章で説明する。
3.狙った定点から正規分布を従う乱数を加えた点に到達する とは?
通常ダーツゲームにおいて、プレイヤーは二次元のダーツボード上のある定点(例えば、インブルの中心等)に狙いを定め、その上でスロー(矢を投げる行為)を行っている。
スローした結果、当然狙ったその定点(先ほどの例で言えば、インブルど真ん中の1ビット)そのものにダーツが到達する可能性もあるが、多くの場合ではダーツは狙った定点から数~数十ビットの「ズレ」が生じたダーツボード上の別の定点に到達することとなる。
今回の分析ではこの「ズレ」が正規分布という確率分布に従った乱数で表現できるものと仮定して考える。正規分布の詳細な説明は別の詳しい方に譲ることとしますが、下記の数式によって定義され、その確率分布は以下のグラフのように図示される。(Wikipediaより引用)
12π−−√σexp[−12σ2(x−μ)2]12π−−√σexp[−12σ2(x−μ)2]
正規分布は上図の通り、その数式中に保有するパラメータ「σ(シグマ)」によって、確率分布の裾の広さが規定される。簡単に言えば、「σ(シグマ)」が小さいほど中心からの「ズレ」は小さくなる可能性が高く、「σ(シグマ)」が大きいほど中心からの「ズレ」が大きくなる可能性が高くなるという傾向を持つ。
今回の分析では、二次元のダーツボード面において、狙ったある定点からx軸方向、y軸方向それぞれに同じ「σ(シグマ)」を持つ正規分布に従った乱数(=「ズレ」)を加えた定点に到達するものと仮定して、分析を行っていく。
※要するに相関係数 ρ=0とする2変量正規分布に従った乱数ということだと
理解しています。勘違いしていたらごめんなさい。
より視覚的に理解できるようにσが小さいプレイヤー(σ=20)と大きいプレイヤー(σ=40)それぞれがインブルの中心を狙って、100投スローした結果をシミューレションすると下記の通りとなる。
σが小さいプレイヤーの方がダーツが中心に集まっており(ダーツ用語でいうところの“グルーピング”している状態)、σが大きいプレイヤーの方が中心から離れた位置に到達することが多いという傾向が把握できると思います。
4.「ダーツの上手さ(Rating)」と「σ(シグマ)」の関係
「3.狙った定点から正規分布を従う乱数を加えた点に到達する とは?」に示した通り、このモデルにおいては、正規分布のパラメータ「σ(シグマ)」は狙った位置からのダーツのずれやすさを意味する指標となり、これはダーツの世界におけるプレイヤーのダーツの上手さ(Rating)の概念とそのまま紐づけることができるものと考えられる。
参考:インブルを狙った場合の確率分布
ダーツライブ社の指標(http://help.dartslive.jp/data/data-004.html)をベースにRatingと「σ(シグマ)」を紐づけていくことを考える。
ダーツライブ社の指標では「① 01ゲームの平均スタッツ」、「②Criketゲームの平均スタッツ」の2つの組み合わせで「Rating」を決定している。
Criketゲームでは、ゲームの状況によって、広さの異なる様々なターゲット(ブルやクリケットナンバーのトリプル?シングル?)を狙う必要があり、本モデルでのシミュレーションに適さない。
一方、01ゲームでは、ゲーム終盤で上がり目がでるまでは、ほとんどすべてのケースでブルの中心を狙って投げていると考えられるため、01ゲームの平均スタッツを「インブルの中心を狙った場合の平均得点」と仮定すれば、Ratingと「σ(シグマ)」を紐づけることができる。
※勿論、厳密には01ゲームの平均スタッツには上がり目が出た後のブル以外の
ターゲットを狙ったスローの結果も反映される点で両者は異なりますが、
ダーツライブ社の01ゲーム80%スタッツであるため、そこまで極端に
非現実的な仮定とはならないと考える
「インブルの中心を狙った場合の平均得点」と仮定したので、よりわかりやすくするため、8ラウンド連続でインブルの中心を狙った場合の合計得点(=カウントアップの結果)で考えます。本モデルにおいて、パラメータ「σ(シグマ)」を0から0.2刻みに40まで変更し、各シグマにてカウントアップを1,000回シミュレーションした場合の平均得点をグラフ化したものは以下の通りとなる。
※分かりやすくするため、フライトの境目(CCフライト400点:、Bフライト:480点等)に点線を入れています。
結果、「σ」と「Rating」の紐づけ結果を下表のとおり得ることができました。
長くなりましたが、今回の分析のモデルについての説明はここまでなります。
次回以降はここまでのモデルを前提として、個別論点ごとの分析を行いたいと思います。